近年、一度会社を退職した元社員を再雇用する動きが広まっています。
従来の日本企業では、あまりなじみのないものでしたが、会社側・働く側双方においてかなり意識も変化。
ジョブリターン(再雇用)制度を導入する企業が増えている背景には、何があるのでしょうか。
人事労務コンサルタントで社会保険労務士の佐佐木由美子氏が解説した記事がありましたので合わせてご紹介します。
目次
ジョブリターンとは
そもそも、ジョブリターンって何でしょうか。
ジョブ・リターン制度とは、一旦何らかの個人的事情(結婚・出産・育児・介護・配偶者の転勤など)で退職した社員が、本人の希望により退職前の企業に再雇用される制度をいいます。
この制度は再雇用する企業側だけでなく、再雇用される側にも多くのメリットがあることから、厚生労働省の雇用機会均等基本調査(平成23年)ではなんと事業所の53.1%で導入されています。また、政府が推奨するワークライフバランスや女性活躍推進も後押しとなり、「ジョブ・リターン制度」を導入する事業所は年々増加傾向にあります。
ジョブリターンが注目される3つの理由
かつて終身雇用が当たり前の時代では、転職そのものがタブーとされていた風潮がありました。しかし、1社に一生勤め上げることが、今や現実的とは言えなくなり、雇用の流動化も進む昨今では、キャリアアップのための転職は決して珍しくありません。一生、一つの会社で終えるなんて勿体ない!と思う人も増えています。
とはいえ、なぜ元いた社員が再雇用されることが、これほどまで一般化してきたのでしょうか。
退職者の再雇用制度については、カムバック採用制度、キャリア・リターン制度、アラムナイ制度(アラムナイは卒業生・同窓生の意味で、転じて離職者やOB・OGを指す)など、会社によって言い方も様々であり、その制度内容も違います。本記事ではジョブリターン制度といいます。
一度会社を辞めた元社員が古巣の会社に戻るということは、会社側においても元社員においても、心理的な抵抗感があって、なかなか受け入れ難い雰囲気が以前にはありました。
そりゃそうですよね。一言で言うと、「気まずい」って思いますよね。
その流れが変わってきた背景には、3つの理由が考えられます。
【1.人手不足問題の解消】
一番大きな要因は、労働力人口の減少に伴う「人手不足問題の解消」です。労働力需給のひっ迫に伴い、人材獲得競争が近年は激化。新卒採用・中途採用いずれも人材確保に悩む企業は多く、地方ではさらに深刻な状況です。
帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査」(2019年10月)によると、正社員が不足している企業は50.1%、業種別では「情報サービス」(75.3%)が最も高く、「建設」(70.4%)も7割を上回っています。「運輸・倉庫」「自動車・同部品小売」「娯楽サービス」「医療・福祉・保健衛生」など7業種が6割台と、人手不足感は一段の高まりを見せています。
【2.ミスマッチの解消と採用コスト削減】
そうした中で、白羽の矢が立ったのが、会社を辞めた元社員だったのです。元社員であれば、会社のカルチャーも理解しており、現場で培った経験から仕事のやり方にも精通し、人間関係などにもなじみがあるなど、入社後の「ミスマッチを解消」でき、結果として「採用コストの削減」にもつながります。
せっかく苦労して採用活動して入社した社員が、ミスマッチですぐに退職してしまうことは珍しくありません。これは企業にとっては大きな痛手です。新卒については、優秀な人材の採用そのものが苦戦している中、入社3年以内に3割の新規大卒者が辞めてしまうという状況です。流儀のわかる社員が戻ってきてくれれば、中途採用でコストを抑えて採用できるばかりでなく、即戦力として大きく期待できます。現場で求められているのは、即戦力となる人材なのです。
【3.多様な人材の活躍】
女性の場合、出産・育児を理由に退職する人は企業の両立支援体制にもよりますが、一定数います。あるいは、夫の転勤によって、別居を回避するために、仕事を辞めざるを得ない方もいます。実は、ジョブリターン制度が各社で導入され始めたのも、育児や介護などを理由として、会社を退職せざるを得なかった元社員をターゲットにしたものが圧倒的多数を占めていました。
自己都合の退職であっても、会社に不満やトラブルがあったというわけではなく、育児や介護という正当な理由で退職した人については、会社としても扱いやすかったというのが本音かもしれません。特に、育児については、子どもの成長に伴い仕事復帰への見通しも立てやすいので、社内での業務経験のある元女性社員を再雇用するというのはお互いにとってメリットを感じやすかったといえるでしょう。
労働行政研究所「民間企業440社にみる人事労務諸制度の実施状況」(2018年)によると、「結婚、出産、育児・介護等で退職した社員の再雇用制度」がある企業は規模計で24.8%、特に1000人以上では43.9%と企業規模が大きいほど導入割合が高いことがわかります。あなたの勤務先はどうですか。私の勤務先はそのような制度はまだ無いです。定年後の再雇用制度は就業規則に定められていましたが。
優秀な女性人材を育児・介護や配偶者の転勤といった理由で手放すことはもったいない。そうしたことにいち早く気づいた企業は、女性活躍推進施策の一環として、退職理由を限定したジョブリターン制度を採り入れていきました。
しかし、近年はそうとばかりは限りません。キャリアアップのための転職はもはや当たり前である、ということを前提に、育児・介護など退職理由を限定せずに、自己都合で辞めた人全般を対象とする制度に進化する動きが広がっています。ある意味、可能性がとても広がると思うんですよね。そして、企業も自己都合で辞めた人でも喜んで再度受け入れる体制を整えるべきだと思います。といいますか、そうしてでもいかないと、人手不足で大変な世の中になってしまうと思うんです。
離れた元社員が再び活躍
就業観が多様化する中で、スキルアップや収入アップなどを目的に、副業・兼業を希望する人たちは年々増えています。「隠れ副業」も含めれば相当な数にのぼるのではないかと私は思っています。かつては副業も禁止とする企業が多かった中、世の中の流れは副業解禁へと確実に向かっています。
企業が推進するのは、異なる環境でスキルアップや経験を積みたい社員のニーズを踏まえて、キャリア形成支援の一環として捉えているからです。また、外部でのキャリア経験が、社内でイノベーションをもたらすきっかけとなるかもしれません。
それと同じように、一度会社を離れた元社員が、ジョブリターンによって、その間に他社で培った知識やスキル、キャリア経験などを生かして、再び活躍してもらうことができれば、副業以上にリターンは大きいと言えるかもしれません。ある意味、他社で修行して戻ってくる、他社に出向して成長して戻ってくる、といったイメージでしょうか。
そのため、育児・介護といった限定的な理由だけではなく、むしろ積極的に自分のキャリア形成の手段として退職を選んだ元社員まで間口を広げるようになったといえます。
副業・兼業が禁止されている会社の規定に抵触するとして、いったんは会社を退職しても、何年か後に会社が副業・兼業の解禁に制度を転換したことで、再び古巣の会社にジョブリターン制度でカムバックし、元の職場で活躍するといった事例は、珍しいものではなくなっていくでしょう。良い時代になってきたものです。
雇用の流動化が加速し、一方で人手不足という現実の中で、人材獲得競争はこれからも続きます。雇用のミスマッチを防ぐという意味では、リファラル(紹介)採用も注目されていますが、元社員という人材に目を付けたジョブリターン制度も広がっていくのではないでしょうか。
転職がダメというわけではない
ただもちろん、必ずしもジョブリターンする必要はありません。新しい職場に変わることももちろんお勧めできます。今の職場がどうしても嫌ならば、我慢して今の職場に居続けるより、思い立ったら行動しましょう!
そのためにも転職サイトに登録等して準備しておくに越したことはありません。いくつかご紹介させていただきます。
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