目次
はじめに
チームを動かすリーダーにとって、言葉は最強のツール。
しかし、誰もが「言葉遣いの達人」ではありませんよね。
『できる大人のことばの選び方』(青春出版社)を書いた松本秀男氏は、
「言葉の操り方はたくさんのパターンを知って、ケイスバイケイスで使い分けるのが得策。たとえば、おはようの直前に『あ、』と添えるだけでも、全く受け取り方が変わる」
といいます。
今日は、周りとの関係を変えるテクニックを勉強してみましょう。
わずかな工夫が言葉の印象を変える
「おはよう」と「あ、おはよう」。音ではたった1音の「あ」が加わっただけの違い。
でも、あいさつを受けた側の印象はかなり違うといいます。なぜでしょう。あなたも、つい、「あ」と言ってしまうことはありませんか?
「あ」という言葉には、相手の存在をしっかり認識して、直後の「おはよう」を発したというニュアンスがあるので、受け手は「自分個人へのあいさつ」「私を見てくれた」と感じるそうです。
当然、視線も相手に向けられているでしょう。つまり、コミュニケーションが成立しているということなんですね。
一方、ただの「おはよう」は聞き手を特定していないので、役職者が机の間を通りぎわにそのエリア一体に何となく発した、儀礼的なあいさつに聞こえがち。
相手を見ていない可能性もあります。心当たりはないですか?私は大いにあります。(^^;
言われた側は、
「自分に向けられたメッセージかどうかが分からないから、返事しづらい。言葉だけが素通りしていく」
と、松本氏は指摘。「不特定多数へのおはよう」はあいさつの効果が薄いんですね。
この「あ」が示すように、わずかな工夫が言葉の印象を変えるんです。
でも、知らないテクニックは使いこなしにくいですし、「あ」なんて普通に言いませんか?
幼いころから自然と身につけてきた日本語ですが、対人ツールとしての使いこなし方を体系的に学ぶ機会は多くありませんよね。
習い事やクラブ活動で教わるケースもありますが、多くの場合、先輩や目上への敬意を示す表現が中心になり、同僚や部下を元気づけたり、チームの空気を温めたりといった使い方はなかなか学べません。
「日本人だから日本語が使えるはずと思い込まず、大人になってから学び直すで臨むほうがよい」
と、松本氏はすすめています。
「とりあえずご機嫌を取る」はNG
「部下はほめて伸ばせ」といわれることがあります。
効果は確かに規定できます。私もよく褒めます。
でも、
「ほめるのは、そう簡単ではない」
と、松本氏は注意を促しています。
松本氏は「日本ほめる達人協会」の専務理事を務めています。目の前の人や商品、出来事などに独自の切り口で価値を見つけ出す「価値発見の達人=ほめ達!」を育てる団体です。
しかし、
「無理にほめようとすると、ハードルが上がってしまう。プラスのニュアンスを帯びた言い方を選ぶところから始めるほうが上達につながりやすい」
とのこと。
企業が研修で松本氏に期待するのは、ポジティブな言葉選びを通じて、チームのパフォーマンスが上がり、退職者が減るといった効果だといいます。
メンタルヘルスを保つうえでも、リーダーや上司の発する言葉は影響力が大きいもの。
とりわけ、「入社から3年以内に3割が辞める」といわれる若年層のつなぎ留めについては、実社会に出て、初めて接する上司・先輩の物言いがきっかけになりやすいものです。
「今の若者はコミュニケーション能力が高いので、いっそう言葉選びに慎重な態度が求められる」
と松本氏は語ります。
でも、私は決して高くないと思います。SNS全盛期のこの時代。SNSではコミュニケーションが盛んにできても、昔のようにフェイストゥフェイスのコミュニケーションができる人は減ってきていると私は思います。
さて、松本氏が言うには、しばしば犯してしまいがちな失敗は、「お世辞、おべんちゃら」と見えかねない、下手な褒め方。まずいパターンは「根拠レスな褒め」だといいます。とってつけたような言葉からは、「とりあえずご機嫌を取っておこう」といった計算が透けてしまい、「かえって警戒感や不信感を呼び覚ましてしまう」とのこと。
逆に、好ましいのは「根拠あり」の形。「価値を発見して伝える」というのが望ましい褒め方だと、松本氏は説いています。褒めるポイントを探すところにエネルギーを割くのが、褒め上手への第一歩です。
相手に顔を向けることが基本
ただし、容姿や学歴などを褒めるのは、かえってハラスメントに問われかねません。
褒めてもらいたくないと、本人が感じている点を褒めるのは逆効果になりがちなのはもちろんです。
むしろ、相手の取り組みや成果物など、仕事に関係が深く、本人が「頑張った」と自覚している対象を褒めるほうが自信や納得感につながりやすいです。
「自分を正当に認めてくれる、大切に思ってくれると感じた相手のために、人は大きなパフォーマンスを発揮する」
と、松本氏は褒めを介したエンパワーメントの効果を語ります。
これはその人の勤務先に対する愛し度合いによっても効果絶大でしょうね。自分の勤務先が大好きで、貢献したくてしたくてたまらないという人には最高の誉め言葉でしょう。
最初に挙げた「あ、おはよう」の例が「あ、小林さん、おはよう」とバージョンアップすれば、気持ちの伝わり具合は一段と高まります。
名前で特定されているので、返事しやすくなり、「自分を見てもらえている」というモチベーションアップ効果が朝から生まれます。
「大事なのは、相手を『人』として認識すること。顔を向けない態度はモノ扱いと受け取られやすい」
と、松本氏は言葉以前の向き合い方を矯正するよう求めています。
パソコンを打ちながら、書類を受け取り、「はい、ご苦労さん」と、形式的に言葉だけを発するのも、部下との関係を冷やします。
松本氏自身も苦い経験があります。
外資系企業に勤めていたころ、チームの仲間を数字や実績で見る感覚があったといいます。
「嫌な上司だったかもしれない」と、反省交じりに振り返っています。
たくさんの企業をみてきて感じるのは、
「パフォーマンスの高い職場は『空気』がいい」という点。
相手を大切に思う気持ちの伴った言葉が交わされ、互いを元気づけているそうです。
「安心して働ける居場所だと感じる心理的安全性がポジティブな取り組みを引き出している」
といいます。相手をいたずらに攻撃せず、長所を見付けようとする態度は心理的安全性を下支えする点でも重要です。
ポジティブに言い換える
松本氏が日本のリーダー・上司層に求めるのは、「もっと言葉数を増やす」という姿勢。
「よくしゃべる=軽薄、安っぽい」
といった思い込みを持たれやすいですが、黙っていては伝わりませんよね。黙っている態度そのものが「偉そう」「強面(こわもて)」など、近寄りがたい雰囲気を生んでしまいます。言葉数を増やすにあたっては前向きな表現を優先して使いたいものです。
そこで、もし、ネガティブな言葉が浮かんだら、ポジティブに言い換えるアレンジを考えてみることをお勧めします。
たとえば、「不安→スリル満点」「前例がない→チャレンジャー」など、少しおどけた感じが加わると、相手の緊張をほぐす効果が期待できます。
部下が提出した企画案を、
「見通しが甘くて、先行きが不安。前例もない」
と突っ返す上司より、
「何だかスリル満点だなぁ。結構、チャレンジャーだけど、どう、一緒にもう少し練ってみる?」
と返す上司のほうが部下からは頼もしく映るでしょうし、後者のほうが間違いなくいいのは誰でも分かりますよね。
「相手の意欲を保ちつつ、改善策に道を開き、可能なリカバリーを試みるという向き合い方は信頼につながりやすい」
と松本氏。
相手を勇気づけたり、背中を押したりする表現もたくさんレパートリーに加えておきましょう。
松本氏のおすすめは、
「さて、何から始めよう」。
ひとしきり相手から提案を聞いたところで、あれこれとプランの穴探しを始める前に、こう切り出すことによって、提案者への基本的な共感を示せる言葉なのです。
細部で気になる課題はあるでしょうし、確認しておきたい前提条件もあるはず。
しかし、あえてそういった「枝葉」を先送りして、大枠での賛同を打ち出すと、提案者は安心を覚え、細部の検討にも熱が入るそうです。
例えば、
「ちょっと、待って。いろいろと気になるんだよね」
と返して、プランにケチをつけ始めてしまうと、提案者は立ち位置のずれを感じ取ります。
「自分のほうが立場や知見の面で上だと示したがる行為はチームの害になりがち」
と、松本氏はリーダー・上司の「偉ぶり」を戒めます。
これは本当にそう思いますね。偉そうな人はこれからどんどんと淘汰されていく時代でしょう。日本もどんどんアメリカナイズされてきており、何かあればすぐコンプラに訴えて、ひどい場合は簡単に裁判を起こされたりする時代です。偉そうな人がのさばる時代はもう終わったんです。時代遅れで偉そうにしている人は本当に要らない時代ですし、近いうち痛い目を見るでしょう。
「自分褒め」のすすめ
楽観的な態度も、チームを勇気づけます。
トラブルが生じた際、
「これは何のチャンスだ。さらにこの商品をレベルアップするきっかけをもらったな」
とチームに語りかければ、士気の落ち込みを防げます。
「だから言ったじゃないか。誰が悪いんだ」
と、責任回避に走るリーダー・上司と見比べれば、頼もしさは際立ちますよね。
松岡修造
テニス解説者・松岡修造氏は、
「崖っぷち、だーい好き」
といった超ポジティブ発想で有名。ポジティブな日めくりカレンダーもかつて一世を風靡しましたね。どうせチームで乗り越えなければならない課題であるなら、チームの意欲を高く保ち、気持ちをなごませる言葉を選ぶのが賢い判断。分かっている課題を深刻になぞって、メンバーを落ち込ませる意味は全くありません。
ポジティブな言葉選びが有益なのは、チームや部下に対してだけではありません。時には自分にもささやくべきだと、松本氏はいいます。たとえば、希望に反した人事異動が決まった場合、昇進する同期をねたむのではなく、
「面白い形で成長させてもらえそうだ」
「全然知らない分野を勉強する機会になる」
と意識をシフトすれば、
「キャリアが終わった」
と嘆く必要はなくなりますよね。
それに、仕事量が多いときに
「きつい、しんどい」
と考えると、前に進めなくなってしまいそうですが、
「きょうもよく頑張った」
「うまいビールが飲める」
とずらせれば、鬱屈するのを避けやすくなるかもしれません。
「自分を褒めるというスキルは、曲折が避けにくい仕事人生を続けていくうえで意味がある」
と、松本氏はメンタルヘルスやモチベーションを保つための「自分褒め」をすすめています。
私も本当にそう思います。何よりも、「言葉」というのは本当に大事なもので、普段から悪口や文句ばかりを言っていると自分がそのような人間になっていき、イライラしやすくなってしまいます。ぜひ、普段からきれいな言葉遣いを心掛け、優しい気持ちでいるよう努力してみましょう。そして、人の悪口などは絶対に発しない。思うのは仕方ないですが、言葉にして発することが何よりも危険なのです。思わないのは神様でもない限り人間なので不可能です。
褒めどころの探し方とは
そして、逆に、褒めてもらうのにも、いくらかのコツがあるといいます。
松本氏にいわせると、
「日本人は褒められるのがあまり上手ではない」。
成果や腕前を褒められても、
「いやいや、私なんかまだまだ」
「褒められるような仕事ではありませんから」
など、過剰に謙遜してしまう人が珍しくないそうです。
ほんとそうですよね。私もそう思います。職場では特にそういう人が多いですよね。素直に、「ありがとうございます」って言えばいいのにって私は思いますし、私はそうしますよ。もっとも褒められることなんてめったにないですけどね。
「謙遜と謙虚は別物。謙虚は大事だが、妙にへりくだるのは、褒めた側との間で、気持ちがすれ違う結果を招く。おごらず受け入れる褒められ方を覚えてほしい」
と、松本氏は褒められ力のアップも求めています。素直に褒めを受け入れるのは、自己肯定につながり、満足度もアップするといいます。
褒める場合は着眼点が肝心。松本氏が提案するのは「成長の幅」を褒める方法。
単純に成果だけを褒めると、目立った成果が出ていない人は褒めてもらいにくくなります。
担当分野や経験量などの違いがあり、チーム全員が平等な立場ではないことを思えば、損得が生じやすいもの。
しかし、前回の取り組みと比べての進み具合や失敗の減少など、変化・改善したポイントに目を向ければ、褒めどころを探しやすくなりますよね。リーダー・上司が成長のプロセスを褒めれば、部下はしっかり仕事ぶりを見てもらえていると感じるでしょう。
やわらかく肯定する
松本氏がかつての上司から見習ったのは、「それもあるね」という応じ方。
部下の提案に必ずしも全面的に同意はしませんが、提案を頭ごなしに否定せず、アナザーのプラントして受け入れる態度を示す方法。
「やわらかく肯定してもらえるので、提案者はがっかりせずに済む。自分の提案が部分的にでも採用される可能性も感じられる」
と松本氏は語ります。
イノベーションを起こさないと、どの企業も生き残りが難しい時代に突入したのは周知の事実。
ダイバーシティー(多様性)に富むチームから、期待を超えるアイデアを引き出すキーフレーズは
「あ、それもあるね」かもしれませんね。
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