はじめに
睡眠中の脳内では、アルツハイマー病の原因のひとつとされるβアミロイドなどの毒素が、まるで洗い流されるかのように除去されている──。
このメカニズムを、米大学の研究チームが解き明かしました。
アルツハイマー病の治療に臨床応用できる可能性がある研究結果ですが、鍵を握るのはノンレム睡眠中に発生する脳脊髄液のゆるやかな「大波」。
睡眠中に毒素が除去?
ヒトが眠っているとき、脳はいくつかの状態を経験します。
浅い眠り、無意識に陥るような深い眠り、そして夢を見やすいレム(急速眼球運動)睡眠。
彼女たちの研究はノンレム睡眠に注目。
概して夜の早い時間に起きる深い眠りで、記憶保持との関連が知られています。
これに関連して、マウスを対象とした重要な研究が発表されています。
マウスが眠っている間に、アルツハイマー病の原因のひとつであるβアミロイドなどの毒素が、脳内から除去されることがわかったのです。
研究チームは、毒素がどのように除去されるのか、このプロセスがなぜ睡眠時にだけ起きるのかに興味をもちました。
脳の周囲を循環する水のような液体である脳脊髄液がかかわっているのではないかと、彼女は考えました。
しかし、睡眠中の何が特別なのかは見当もつきませんでした。
そこで、さまざまな変数を同時に測定する実験を考案しました。
実験参加者は、MRI装置のなかで横になって眠るよう指示されました。
通常の睡眠サイクルを再現するため、実験は深夜0時からスタート。研究チームは、参加者たちが実験開始後すぐに眠れるように、前夜は夜ふかししておくよう依頼していました。
研究チームは参加者に脳波測定キャップをかぶせ、脳の電気活動を可視化。
脳波を見ることで、参加者が睡眠のどの段階にいるのか判別できます。
一方、MRIは脳内の血中酸素濃度を測定し、脳脊髄液がどれだけ循環しているかを明らかにします。
「これらの測定指標が重要なはずだと直感していました。それでも睡眠中にどう変化するか、どのような相互の関連があるのかは、わたしたちにも未知の領域でした」と、研究者は言います。
鍵となる脳脊髄液のゆるやかな「大波」
この結果、ノンレム睡眠中に脳脊髄液のゆるやかな「大波」が、脳を洗い流すことがわかりました。
この波がどうやって生じるのかは、脳波を見ることで判明しました。
ノンレム睡眠に入るとニューロンの活動は同期し始め、脳全体が同時にオン/オフを切り替えるようになるのです。
「まず最初に、すべてのニューロンが静かになる状態が観察されます」と、研究者は説明。
すべてのニューロンが一時的に発火をやめるため、必要とされる酸素量が減少。これは脳への血流量が少なくなることを意味します。
そして、その空白を埋めるように、脳脊髄液が大量に流れ込む様子が観察されました。
さらに、「睡眠は、ただリラックスするためのものではありません。独自の機能があるのです」と、専門家は言っています。
覚醒時には、すべてのニューロンがオン/オフを同期することはありません。
つまり、起きているときには脳血流量が十分に下がらないので、脳脊髄液の大きな波が脳内を循環し、蓄積したβアミロイドなどの代謝副産物を洗い流すこともないんですね。
高齢の参加者を対象とした実験に期待
この知見は、アルツハイマー病の治療に臨床応用できる可能性があります。
近年のアルツハイマー病の治療法の開発は、βアミロイドに照準を絞ってきました。
ところが、初めのうちは有望に思えた薬は、どれも臨床試験で暗礁に乗り上げたんです。
もし実現すれば、βアミロイドだけでなく、ほかの有害な分子も除去できる可能性があるとのこと。
その一例が、アルツハイマー病患者の脳内に蓄積し、ニューロン間の接続を阻害するタウたんぱく質。
ごみを全部まとめて一掃する方法は、問題の一部分だけを解決するよりもずっと強力となります。
加齢は、たった1種類の分子の増減の問題ではなく、すべてが衰えていくそうです。
今後にさらなる期待ですね!
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