最近、多くの会社で重要なテーマとなっている「退職」。それらを予防するためには、どうすればいいのでしょうか。今日はそういったことをテーマにお話しします。
「退職」。まずはその原因を探らなくてはいけません。まず、退職にも「避けられないもの」と「避けられるもの」があります。親の介護や配偶者の転勤などの致し方ないものや、処遇など現職よりもかなりよい条件を提示されてステップアップしていくようなケースはなかなか避けられません。
人が会社をやめる3つの理由
退職原因は3つに分けられると言われています。それは、
「入社ストレスの問題」
「人間関係の問題」
「キャリア観の問題」
1つ目の「入社ストレスの問題」から考えてみましょう。そもそも新しい職場に入ること自体が大変ストレスフルです。1960年代にアメリカのホームズ博士が提唱して有名な「ストレス表」というものがあります。さまざまなライフイベントのストレス度をそこから回復できる期間で数値化したものです。
1年間に起こったライフイベントの数値を合計して、200点を超えると50%が、300点を超えると80%が2年以内に心の不調を訴えると言われているのですが、就職・転職に関係しそうな「退職」「再就職」「経済状況の変化」などを足していくと、優に200点を超えてしまいます。
これに追い討ちかけるのが「リアリティーショック」で、読んで字のごとく、現実に直面して理想化したイメージが打ち砕かれるショックです。
人は大きな決断をしたとき、選んだのは「よい選択肢」だと思いたくなるものです。そして、入社する会社についての情報は、よいものは取り入れ、悪いものはスルーして、理想化してしまいがちです。そのために新入社員は、ありのままの現実に接するだけでギャップが生じてしまい、モチベーションが下がるわけです。
ギャップを少しでも和らげるには、採用過程や内定者教育時に、ネガティブなことを含めた入社後の現実を丁寧にインプットしていくしかありません。
それから、入社前に絶対に理想と現実のギャップは当然と考えておくことです。
「人との相性」が退職理由になることも
次に「人間関係の問題」について考えてみます。ある人をどこかの部署に配属するとき、人事はどんなことを考えるか。要素としては「能力」や「性格」「志向」などがありますが、多くの場合、受け入れ側には「その仕事ができるのか」という「能力」を、個人の側には「その仕事がやりたいのか」という「志向」を重視してほしいと思います。
しかしながら、いろいろな研究や事例をみると、ここで検討項目として外されがちな「性格」が結局のところ、配属されてからの居心地のよさやパフォーマンスに強い影響があることがわかってきています。にもかかわらず、「性格」は配属の際にそれほど考慮されないのが実情なのです。
転職サイトなどでたまに実施されている「真の退職理由ランキング」などをみても、退職理由は「人と合わない」ことが半分以上を占めていることが多い。つまり、考慮されなかった「性格」、もう少し丁寧に言えば、「上司や同僚との性格的な相性」が退職の大きな理由となっているのです。
これを読んでいて転職した経験のある方で分かる方はいるのでは?
私もそうです。前の会社は、確かに給与面や福利厚生面で不満はありました。でも、一番の要因は直属の上司でした。パワハラ的に厳しい上司でした。それが一番の要因となって他と相まって転職活動というパワーになっていったんです。転職できて良かったと今では思っていますが、もちろん今の勤務先でも悩みは沢山あります。結局はサラリーマンっていうのはどこでも似たようなものなんだろうなってそこは諦めています。
「人は会社を去るのではない。嫌な上司の下を去るのだ」といった格言めいた言葉もよく聞きます。これだけ退職に影響を与える要素なのですから、これからは配属の際にもっと「性格の相性」を考慮すべきでしょう。さらに言えば、性格を認識するのは人事のカンなどではなく、適性検査などの科学的ツールで可視化したほうが正確です。最近は、AIでもそのようなことが進んできています。終身雇用が終わりを告げ、「個」の時代になっていくとはいえ、もっとサラリーマンが働きやすくなっていくのも悪いことではないですよね。
もちろん、配属をする際に「能力」や「志向」は大切です。ですから、性格の相性だけで最適化された配属をすることはできません。しかし、性格最適が無理なら無理で、「相性の悪い配属をした」という事実を認識しておくことが重要です。そうすれば、その人を「要ケア人材」として対策を打つことができます。
例えば、事前に上司に配属する社員のパーソナリティーとマネジメント上の注意事項を丁寧にインプットすることができます。また、メンターやコーチとして性格の合う先輩社員をあてがうこともできます。問題発生確率が高いから、日々モニタリングをして面談フォローしたほうがいいわけです。
「キャリア観の不一致」も退職の理由に
最後が「キャリア観の問題」です。自分のキャリア観とフィットしない仕事についたことを原因とする退職を指します。
こう書くと、少なからぬ人が「そら見たことか、キャリア意識を高めるような施策を打つと、寝た子を起こして、退職につながるじゃないか」と思うかもしれません。しかし、それは違います。むしろ、会社側が社員のキャリア意識を高めるサポートをすることで、退職意向度が下がることがわかってきています。
土台、この時代、キャリアを意識させないことなど無理なわけですから、ここは社員が自分のキャリアについていろいろ考えることを前提に対策を考えるべきでしょう。
そこで言いたいのはマネジャーたるもの、部下のキャリア志向、将来どんなキャリアを歩んでいきたいのかを知るべしということです。多くの会社でマネジャーは部下のキャリア志向を残念ながら知らない現状があります。研修やワークショップなどで書いてみてもらっても、薄い情報しか出てこないのが悲しいかな、現実です。
忙しい日常の中、短期的な業務上の連絡や指導はしていても、キャリアのように中長期にわたるテーマについてじっくりと話をする機会は少ないようです。だからあえてキャリアをテーマに話す1 on 1ミーティングがはやっているのかもしれません。
人がやめない会社とは?
まとめますと、人がやめずにいつく会社というのは、「入社時のストレスを十分認識して、それを軽減するために、リアリティーショックを避ける情報提供をしたり、相性に合わせた配属を考えたり、キャリア志向を大切にしてその実現をサポートする」ような会社ということです。
もっと簡単に言えば、会社の中の個人が置かれている環境を想像して、それに沿ったケアをしてあげているというだけのこと。これがよく言われる「人を大切にする」ということではないでしょうか。
優しく接していれば大切にしているということではない。マネジャーが部下のために想像力を働かせることが、「人がやめない会社」の第一歩と言えるでしょう。
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