はじめに
「働き方改革」が必要だということは、頭では十分にわかっている。
でも、実際は定時に帰れることが少ないし、有給休暇も十分に取得できない。
こんな会社員に対して、
「働かないためのスキルを身につけよう」
とアドバイスするのが、今回ご紹介したい
『働かない技術』という本。
日本の会社では、勤務時間の約6割が無駄でできているといいます。
横浜市の調査では横浜市のとある公務員の業務は9割が無駄との調査結果が出ました。
どうすれば日本のこんなくだらない体質から脱却できるのでしょうか。
長時間働くのは絶対にカッコ悪いぞ!
日本では働き者が評価されます。
長時間がんばることは美徳という意識がいまだに根付いています。あーくだらない。
しかし、「働かない」ための技術を必死で磨かなければ、今後あなたは会社で生き残れない、
と著者は警告しています。
8時間労働という慣行は、生産現場を中心とする工場労働に適合したシステム。
一方、知識労働者にとっては生産性を高めるために集中していられる時間は、
3時間程度だとされています。
「あなたの勤務時間の62%はムダでできている」と本書は指摘しています。
なぜ、日本社会は働き者を評価するのでしょう。
日本の職場は「メンバーシップ型」組織です。
欧米の「ジョブ型」組織と明確に区別できます。
この特性が、長時間労働を招く一因になっている、と著者は指摘しています。
ジョブ型は職場が変わっても自分の専門(職種)は同じです。
そのため、例えば月単位や年単位の繁忙期が前もってわかります。
労働時間のコントロールや休暇取得がやりやすいのです。
一方、メンバーシップ型は、多くの場合頻繁な人事異動を伴います。
しかも全く畑の違う分野に移ることがザラです。
その場合、一から仕事を覚えることになり必然的に業務をこなすのに時間がかかってしまいます。
異動すれば、その職場では「素人」です。
ということは「時間をかけて何とか仕事をこなす」ことが可能になります。
しかし著者は「時間でなんとかする」働き方は最長3年で卒業するべきだと強く訴えます。
悪い慣習から脱却するには、管理職の意識改革が不可欠。
しかし、ずーーーーーーーーーーっと自分が正しいと思ってきたような堅物の50代60代のカンリショクの意識改革なんてそう簡単には行きませんよね。
最悪の場合、早く定年退職してもらうのが一番手っ取り早かったりします。
業務の優先順位を選別する視点
ここで、管理職であるあなたを想像してみて下さい。
次の2つのケースで、どちらの仕事を優先しますか?
- 【1】「重要度」が高く、「緊急度」は低い業務
- 【2】「重要度」が低く、「緊急度」は高い業務
最も先に取り組むべき仕事は「重要度」と「優先度」の両方とも高い業務。
そうして、いつの間にか納期が迫り、一番優先順位が高い業務に格上げされます。
それは、管理職としての職場マネジメントが、目先の緊急度や経過に振り回され、成果や働き方「改革」につながる重要な業務に、いつまでも着手できないからです。
「働かない」ためには、個人がスキルを高めると同時に、人事管理システムを改革する必要もあります。
著者は2トラックのキャリアコースを提案しています。
1つは
「職務給概念による欧米型人事管理」
です。
職務給では職務範囲が限定され、ポストも固定されています。
経営企画や広報、営業などで、専門性を発揮できるポストが主な対象となります。
彼らは、部下の育成や管理にはタッチしません。
もう1つは
「役割給概念による日本型人事管理」
です。
この管理職には3つの役割を求められています。
- 部門のリーダーとしてチームメンバーに進むべき方向性を示す
- 自部門で問題が起きないよう未然に防止し、起きてしまったらトラブルに迅速に対応する
- 最も重要な経営資源である人材を確保して育成する
日本の管理職は、1人で2つの機能を果たすケースが少なくないのです。
だからいつまでも忙しいままだというのが著者の見方です。本書から引用しましょう。
日本の企業人は、確かに農耕型のメンタリティーもあるが、実際にあれもこれもとやりすぎていないだろうか。
人が少ないから仕方がないという主張もあるだろうが、その一方で、皆が同じように多能工化しようとするから、そこには際限のない仕事が待っているし、働かないことができないのだとも言えないだろうか。
またこのことは、いまだに長時間労働をもって、上役に自分の仕事ぶりをアピールすることともつながる。
そこで、新たな人事管理の仕組みとして、役割給人材は人材育成のプロフェッショナル、職務給人材はそのポストのプロフェッショナルとして仮置きしてみるとどうなるか。
自分で仕事を抱え込み、部下に振れない役割給人材・課長は、成果を出していない。
特定の範囲内で、効率的に仕事ができない職務給人材は、成果を出していない。
企業会計と働き方の密接な関係
著者は、働き方改革で管理職が果たす重要な役割が見過ごされていると指摘しています。
その役割とは「自分の会社のミッションについて管理職自身がよく理解する」ということです。
日本は、現場で働き方改革の旗を振らなければならない課長レベルが、自社の決算書を読みこなせていないことが多いです。
どのような企業も、決算書の内容をよくすることは、最重要課題のはずです。
だとすれば、決算書を深く理解することで、
「自部門で最優先するべきインパクトのある仕事」
「そうでもない仕事」
「実はやらなくてもよい仕事」
をそれぞれ判別できるようになるでしょう。
例えば会議の無駄について、会計の発想から考えてみましょう。
一般的なオフィスワーカーは業務時間の20~30%を会議に充てているとされます。
これがマネジャークラスだと60~80%にもなります。
非効率な会議が多いとするなら、これだけ大量の経営資源を浪費していることになります。
言い換えれば「無駄な会議をしている会社には、伸びしろがある」ということになります。
会議をスリム化する、つまり効率的な運営に変えることで企業の生産性向上に貢献できるのです。
会議以外にも、無駄の実例はかなりあります、その一部を書き出してみましょう。
・多すぎる承認・決議
・多すぎる電話対応
・度重なるデータの移し替え
・社内顧客への過剰なサービス
・ヒマな人と忙しいヒトの併存
あなたの勤務先にも当てはまるものがあるはずです。
なんのために「働かない」のか
「働き方」改革の実現を議論してきた著者は、エピローグで「何のために働くのか」を問い直します。
ここでは個人的な経験を語っているのが印象的です。
課長時代にリストラ寸前まで追い込まれたという友人に、著者は3年ぶりに会ったそうです。
そのとき、彼はリストラ要員という苦境を乗り越えて部長職に昇進していました。
挫折を経験した彼に「企業人に求められる資質」について聞いてみたそうです。
彼はこう答えました。
「不遇にへそを曲げてしまったら、課長にすらなれなかった。曲げても何も良いことはないから。会社で時間を過ごすわけだから――」
リストラ危機を乗り越えた友人は、不遇な時代に、職場で同僚の嫌がる仕事を率先して買って出ました。
職場で困ったことが起きたら逃げずに向き合ったといいます。
著者は、この姿勢を「徳」と呼びます。
結局、管理職に求められるのは徳なのです。
「働かない」という本書のタイトルの裏には「働くことの意味を真剣に問うてほしい」という著者の思いが隠されているようです。
こちらの本、ぜひお読みいただき、一人でも多くの方に、働き方改革真っ盛りの現在に少しでもメスを入れてほしいです。
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